続テルマエ・ロマエ 公式サイト

10話目(能登の湯宿「さか本」編)が更新されました 

  • ヤマザキマリ・ブログ

今年の目標は月イチ連載!と決意を固めていたにも関わらず、いろいろと他の仕事もやってるもんですから思うように時間を調整することができず、まことに忸怩たる思いでございます。

ですが、この10話をもってやっと「続テルマエ・ロマエ」の2巻がまとまる運びとなりました。

著者の手元に届いた2巻

そして10話目ですが…

今回ルシウスが現れる日本のお風呂は、石川県能登半島の珠洲にある湯宿「さか本」です。

「さか本」は一般的な温泉宿や公衆浴場とは違い、わかりやすい客寄せ的なアプローチもなければ、余計な演出もまったく無い、ただひたすら静寂と自然、そしてお湯と向き合うための宿です。

HPにはこう書かれています。

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もしかしたら、さか本は大いに好き嫌いを問う宿です。

なにしろ、部屋にテレビも電話もトイレもない。

冷房設備もないから、夏は団扇と木立をぬける風がたより。

冬は囲炉裏と薪ストーブだけ。

 

そう、いたらない、つくせない宿なんです。

さか本はなんにもありません。申し訳ありません。

使う水は、敷地内に自噴しています。

源泉の温度は17℃。吹きさらしの洗面所の先はもみじ林です。

母屋から50m先に離れがあります。

本かCDでも持参していただき、のんびりお茶などどうぞ。

ここは時間の制限がありません。

チェックイン前でも、チェックアウト後でも自由に使えます。

お風呂は竹林にあります。

夕日が射し込んで竹がシルエットになる時

または夜、室内灯を消し、窓を全開にして紅葉を楽しんでください。

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私がこの宿を初めて訪れたのは2023年の9月、とある女性誌の取材でした。

いくつか提案されていた来訪先の中からこの宿を選んだのは、イタリアのフィレンツェに留学していたころ母が日本から送ってくれた、日本の伝統文化を特集する雑誌に能登が取り上げられていて、そこにあった陰翳礼讃な写真や厳かな伝統文化に強く惹かれたのを思い出したからです。

さか本を訪れると、整備された美しいアプローチと周りの自然との調和から、既に宿主の美意識の高さが感じ取れました。

漆が塗られた暗い廊下に外から差し込む光が穏やかに反射し、そこにはまさに40年近く前に私頭に思い描いていた能登ならではの、因縁礼賛の空間が広がっておりました。

 

確かに部屋にはテレビも電話もトイレもありませんし、冷房設備もありません。

窓の向こうの景色は絵画の額のようで、部屋に吹き抜ける風も心地よく、都心の5つ星のラグジュアリーハイスペックの宿のような、クオリティーの高さの自己主張は全くないのに、とても贅沢です。

敷いてあるお布団も、枕も、シーツも心地の良い素材のものばかりで、見えないところに宿主のこだわりが伺えます。

 

お風呂も17度の鉱泉を沸かしているものですが、浴室にも余計なものは一切なく、お湯は重厚な木の蓋をいちいち開け閉めして浸かります。この動作によってお湯も入浴も大切なものだという意識が高まります。

 

そして漫画の中でもルシウスが食べた焼きおにぎりは、さか本の名物です。

古代ローマではガルムという魚醤を皆日常的に使っていました。「テルマエ・ロマエ」でも秋田のしょっつると出会って「ローマ味!」と興奮したルシウスですが、今回は、このおにぎりの表面に塗られた石川県の魚醤”いしる”の味に反応しています。

 

なにもないという贅沢のありかたを存分に痛感できる、それが湯宿「さか本」なのであります。

本編ではもう少し、宿の雰囲気や”なにもない”というコンセプトに焦点を置きたかったのですが、つい焼きおにぎりに力が入ってしまいました。またどこかで”さか本”についてはじっくり描かせていただきたいと思います。

 

そして…初めてこの宿を訪ねてから3ヶ月後のお正月、あの能登地震が発生しました。

珠洲市内(2024年7月撮影)

「さか本」は大きなダメージもなく、家族の皆さんも無事でしたが、周りの景色や街の佇まいは一変してしまいました。

イタリアも南北に細長い火山半島で、古代の昔から地震は頻発しています。

そんな中でも浴場文化を絶やすことなく継続し続けてきた、生きるためのお湯への思いは、日本も古代ローマも変わりません。

地球に暮らすことに驕りは禁物ですが、そんな条件の中にあっても入浴欲求に駆られる人々の創意工夫がどのようなかたちとなって現れるのか。

今回は珍しく読み切りではなく続きのエピソードになってしまいましたが、旧テルマエを描いていたときからずっとやりたかったネタを次回は展開させていただこうと思っております。

なる早で描きますので少々お待ちください!!

ジャンプ+「続テルマエ・ロマエ」最新話はこちらから→ https://shonenjumpplus.com/episode/17106567263769426706

 

*さか本は2025年の7月まで休業中です:HP https://www.yuyado-sakamoto.com